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キリスト教の教会建築の歴史 建築様式の一覧まとめ

こんにちは。YoFuです。

今回は『キリスト教の教会建築 建築様式のまとめ』をお送りします。 

世界中を旅行していると、キリスト教の教会を各地に見ることができます。特に、ヨーロッパは至るところに教会が建っています。

芸術作品のように壮麗な美しい教会、重厚感を持つ厳かな教会、歴史の中で廃墟に変わり果ててしまった教会、明るく開放的な雰囲気で人々の集会所となっている教会など、様々な教会が建っています。

それらの教会は、時代ごとの様式に沿って建てられています。各様式はその時代を反映しているもので、建てられた時代によって姿が違います。

キリスト教の教会はただ見ているだけでも楽しいのですが、各時代ごとの建築の様式を知れば、キリスト教の教会をもっと楽しめるようになります。

なので、今回はキリスト教の教会の建築様式を歴史順にまとめていきます。

キリスト教の教会建築の歴史は2000年近くあるので、長くなってしまいましたが、できるだけわかりやすいようにまとめたつもりです。

追記 : 流れだけを簡潔に砕いて書きました。こちらを見てからこの記事を読んでいただいた方が良いと思います。

yofu.hatenablog.com

追記:2020年12月30日大幅に加筆修正しました。

 

まえがき

キリスト教の教会の建築様式には、ロマネスクやゴシックなどの名前がついていますが、これは後世になって名付けられたものです。

後世の研究者が、各時代ごとに教会を区別するためにつけました。

建築様式というものは、既存の建築様式が他の地域に伝播し、その伝播した先の各地域の文化や技術などと混ざり合い、長い時間をかけて作られていくものです。これは、キリスト教の教会の建築様式に限らず、すべての建築様式で共通です。

また、新たに出来上がった建築様式が他の地域に伝わるのには時間がかかります。伝わる間にも、各地域の文化と技術などが混ざり合っていきます。

そのため、同じ建築様式の教会でも、建築様式が伝わってきた時期や、その地域の文化や技術などによって各地域によって微妙に違います。さらに、建築工事の途中で他の建築様式が伝播してきた場合、新たな建築様式と混ざりあった教会が建てられることがあります。

そのため、教会は全く同じ姿をしたものがありません。それぞれの個性と違いを楽しむことができます。

また、改築や修繕を施す場合、そのときの様式に合わせるので、様々な時代の建築様式が混ざりあった教会が存在しています。そのため、古い教会では建築当時の形のまま残っていることは非常に少ないです。

ちなみに、教会は聖者に捧げるための記念碑的な役割を持つことが多かったので、教会は聖地や聖者の墓所に建てられることが多いです。なので、教会の名前は捧げられた聖者の名前もしくは、建てられ場所の地名となっていることが多いです。

例えば、サンピエトロは聖ペトロ、ノートルダムは聖母マリアとなっています。

フローチャート

流れがわかるようにフローチャートを造ったので、載せておきます。

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古代ローマ建築

すべてのキリスト教の教会建築の基礎となった建築様式です。

古代ローマ建築を理解することで、キリスト教の教会建築を理解しやすくなるので、キリスト教の教会ではありませんが解説をしておきます。

ローマが誕生したのは、紀元前753年のことです。それから10世紀もの長い間、地中海を中心に広範な地域を支配していました。その長い間で、素晴らしい建築技術を生み出しました。

ローマ時代の素晴らしい建築は、今なお各地に点在しています。

特徴

画像解説

・古代ギリシアのオーダーの様式の一覧です。左からトスカナ式、ドリス式、イオニア式、コリント式、コンポジット式です。

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建築材料

レンガやローマン・コンクリート、大理石などを主な建築材料にしています。特に、ローマン・コンクリートはローマが生み出した建築材料の中で傑作だと言われています。

構造

宗教建築と世俗建築とを問わず、様々な建築材料を使いこなし、壁構造、柱梁構造、アーチ構造、ドーム構造などの様々な建築構造で建物を造り上げました。

古代ギリシアの継承

古代ギリシアの建築様式を引き継いだことも特徴の一つです。

オーダーやヴォールトなどの古代ギリシアの建築様式を取り込んで、素晴らしく美しい建築物を作りました。

有名な建築

・ポンペイの再建

火山の噴火により地中に埋もれ、当時の姿がそのまま残っていることで有名なイタリアの街です。

ポンペイはもともと反ローマを掲げていた街でした。ローマとの戦争に負け、ローマに支配されました。

その後、戦争で荒廃した街はローマによってローマ化しつつ再建されました。

矩形のフォルム(広場)に公共施設が集め、直角の道路を配置し、綿密な都市計画のもとに整然とした平面図が作られました。

・ティトゥス凱旋門

アーチ構造とオーダーが融合したものです。

豊かな装飾コンポジット式のオーダーと美しく整ったエンタブレチュア、それに見事なアーチが組み合わさった門です。

その素晴らしさから、中世以降の凱旋門の原型となりました。

ちなみに、中世に砦へと改築され、近世に入ってからもとの姿に復元されました。

・コロッセオ

円形闘技場の集大成です。

壁は連続するアーチ構造とオーダーを組合せたもので、それまでの壁構造とは全く違う建築です。

地上3階建て、地下1階建ての4階建てになっています。地上の3階は各階ごとにオーダーが変えられており、1階はドーリア式、2階はイオニア式、3階はコリント式になっています。

コロッセオはその後のヨーロッパ建築に大きな影響を与えました。

ちなみに、コロッセオは建材をちょこちょこ他の建物に流用されており、採石場のようなものだと考えられていました。

ちなみにちなみに、今はコロッセオ内は地下構造がむき出しになっています。

・パンテオン

ドーム建築の頂点の一つです。

直径43.2メートルの球体がすっぽり収まるほど巨大なドーム、古代ギリシアの傑作であるパルテノン神殿を彷彿とさせるオーダーとペディメント、列柱廊などによる玄関部分からなります。

天井には、採光のための直径9mの開口部(オルクス)が設けられています。

建築とは、空間そのものを創造する芸術である。というローマ人の建築に対する世界観が表現されています。

完全球体ということでローマ世界の中心という象徴的性格も表現しています。

・ハドリアヌスの別荘(ヴィッラ・アドリアーナ)

従来の、直線の軸線をもとにした平面図ではなく、折れ曲がっている軸線を組み合わせた平面図が用いられています。

折れ曲がった軸線上に個々の建物が配置されています。また、部屋と部屋の境目も、従来の直線の壁や列柱ではなく、曲線の壁や列柱などが用いられています。

曲線をもとにした、新しい形のローマ建築が生まれました。

・ディアナの家(インスラ)

コンクリート製のアパートです。

都市化による地価高騰で土地を持てなくなった市民のために、ローマ中に建てられました。

投機目的で建てられたため、かなりの安普請でした。自然倒壊や火災が頻発しました。

ちなみに、世界で最初の賃貸住宅です。

・ケレスの図書館

洗練された、古代ギリシアの伝統的な古典オーダーを持ち、絵画のよう美しい外観となっています。

現在は、正面ファサードしか残っていないので、在りし日の姿を想像することしかできません。

・ティムガッド

アフリカにある、古代ローマ帝国の植民都市です。また、古代ローマ帝国における都市計画の神髄です。

都市全体が矩形の城壁に囲まれており、城壁の内側には碁盤上に道路が走っています。そして、中心に公共施設が集まっています。

ちなみに、7世紀にベルベル人の攻撃を受けて以来放置され、砂漠に埋もれたままになっていたので、かなり良い状態で残っています。

・ローマ水道

何100キロにも及ぶ長さの水道で、ローマ建築の技術の素晴らしさを物語っています。

連続するアーチ構造、地下トンネル、市街地に到達した水を各施設に分配する分水施設など、ローマが持っていた様々な技術の粋を用いて造られました。その技術の一部は現在でも使われているほどです。

ちなみに、遺物混入を防ぐために大部分は地下に造られました。

バシリカ式

キリスト教の教会建築の始まりの建築様式です。

ローマ帝国は、もともと反キリスト教でした。そのため、キリスト教は地下で信仰されていました。

313年、ローマ帝国はキリスト教を公認しました。これにより、地下に追いやられていたキリスト教が地上で信仰されるようになりました。

ミサを行うための空間として、教会が建てられるようになりました。そして、人が集まるという意味の『バシリカ』と名づけられました。

キリスト教の教会建築の歴史はここから始まります。

地上で信仰されるようになったばかりのころは、独自の建築技術を持っていなかったので、古代ローマの建築様式で教会を建てていました。

その後、キリスト教の文化を織り交ぜながら、徐々に独自の様式を作り上げていきます。

バシリカ式はこの後すべてのキリスト教の建築様式の基礎です。バシリカ式の教会がグレードアップしたと考えてください。なので、身廊や側廊、アプスなどの基本的な部分はこの後解説する他の建築様式でも共通です。それぞれの様式で改めての解説はしていません。

特徴

解説画像

・バシリカ式の平面図

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・バシリカ式の特徴を強く残している、イタリアのエヴェンナにあるサンタポリナーレ・イン・クラッセ教会

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・中世に描かれた教会の絵。中世に描かれたものなので、厳密なバシリカ式の教会ではありません。イメージを掴んでもらうために載せました。

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構造

木の梁と柱による、木造軸組工法です。この工法は開口部を自由に設定できるので、開口部の数が非常に多く、大きいです。

開口部から陽の光がサンサンと差し込むので、内部は非常に明るいです。

側廊

教会内部の両側にある、列柱と壁との間の空間です。

身廊

両側の側廊の間の空間です。ベンチが並んでいます。

側廊の天井より高くなっており、その差の壁の部分に高窓が設けられています。

空間構成

身廊と側廊の天井の高さの違いと、身廊と側廊を独立した空間として仕切るように左右に立ち並んでいる列柱が、入り口から奥への向かう強烈な指向性を作り出しています。

ナルテクス

教会の入り口の扉の手前部分にある、玄関廊です。住居でいうポーチです。

当時のキリスト教の教会は、信徒でなければ入れなかったので、信徒と信徒以外を区切る空間としての役割を持っていました。洗礼を希望する人の為の空間として使われていました。

キリスト教が迫害されていた時代の名残です。

アトリウム

教会の前にある前庭です。中央に泉が、周囲に列柱廊が巡らせてありました。

キリスト教徒を洗礼するための洗礼堂として使われていました。

クリア・ストーリー

身廊の方が側廊よりも屋根が高く、その差の部分の壁に高窓が設けられました。この高窓が並んでいる層のことです。

アプス

身廊の突き当りにある、半円形の空間です。祭壇が設置されています。

教会が持つ、入り口から奥への向かう強烈な指向性により、教会に入場した信徒の視線がアプスに集中するような構造になっています。

アプスの上の天井には、半ドームが設けられており、キリストの復活や昇天などの重要なイベントをテーマにした画が描かれています。

袖廊(トランセプト)

身廊・側廊が突き当たる、直角に交差する廊下の建物から突き出した部分のことです。画像の薄茶色の部分です。

主な教会

建築からかなりの時間がたっているため、バシリカ式の特徴が残っている教会はほとんどありません。

・サンタポリナーレ・イン・クラッセ教会

イタリアのラヴェンナ地方にある、古代バシリカ式の建築様式の特徴を強く残しているほとんど唯一の教会です。

 

ビザンツ建築(ビザンティン建築)

東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の建築です。ビザンツ帝国の建築様式なので、ビザンツ様式とそのまま名付けられました。

地中海沿岸地域を広範に支配したローマ帝国を受け継いだ帝国なので、ローマ建築の要素がかなり強いのが特徴です。

また、ビザンツ帝国のキリスト教の宗派は『正教会』で、今回の記事で紹介する他の建築様式は主に『カトリック』です。なので、ビザンツ様式は他の建築様式と毛並みが違います。

この点が、ビザンツ建築の面白さです。

ちなみに、西ヨーロッパでは様々な建築様式が誕生して移り変わりましたが、東ヨーロッパではずっとビザンツ建築様式が用いられてきます。

特徴

解説画像

・ハギア・ソフィア大聖堂の平面図。ドームを中心に、集中的な平面図となっています。

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・ペンデンティヴドームの構造解説図。デカイドームの上に一回り小さいドームが乗っているような構造です。

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集中式教会

上から見ると、ギリシア十字に似た平面をしているので、平面はギリシア十字形と呼ばれます。

中央に円形または多角形をした構造体を建て、ドームを冠せます。それを中心に他の施設を建てていった、中心への求心性の高い教会です。

構造

バシリカ式教会のアプス上にドームを設けたような構造をしています。

バシリカ式教会の持つ、入り口からアプスへとの向かう強烈な指向性と、神の座を象徴するドームの垂直性が組み合わさっています。

入り口からアプスへと向かう典礼行進が見栄えするような空間構造になっています。

ドーム

ドームを神の座として表現したため、ドームが非常に重要な要素です。

ペンディンヴ・ドーム

上半分を切り取った形をドームを作り、その上に一回り小さいドームを設けたドームです。

巨大なドームを造る事ができるうえ、とても頑丈だったので、様々なドーム建築で多用されました。

主な建築

・ハギア・ソフィア大聖堂

かつてのビザンツ帝国の首都に造られた、ビザンツ建築の傑作で代表作です。

直径31メートル、高さ55メートルにおよぶ世界最大のペンデンティヴ・ドームを持っています。

色大理石とガラスモザイクによる美しく飾られたカラフルな装飾も特徴です。

ビザンツ帝国を征服したオスマン帝国がモスクに改装したので、キリスト要素は無くなり、イスラム一色になっています。ちなみに、現在は博物館になっています。

・サン・マルコ大聖堂

ヴェネツィアにある、ギリシア十字形平面の典型的教会。

・サン・ヴィターレ教会

ビザンツ帝国が、イタリア半島を支配するための拠点としていたラヴェンナにある教会です。

ロマネスク

西ローマ帝国の滅亡以降、11世紀頃までは帝国の分裂や蛮族の侵入などで西ヨーロッパは社会的に不安定でした。

不安定な時代では、文化を成熟させるのは二の次で、生きるのが優先でした。建築も例外ではなく、11世紀頃までは建築文化は発達することはありませんでした。

12世紀頃から社会的に安定しはじめると、建築活動が盛んに行われるようになりました。

石材が西ヨーロッパの至るところで採れたため、石材による建築技術が発達しました。教会、城、都市などが石を積んで建築されました。各都市では大聖堂が作られ、その都市のランドマークとなりました。

また、聖地巡礼ブームが起こり、ヨーロッパ各地で巡礼路が整備され、巡礼者がお祈りや休憩するための教会が各地の巡礼路沿いに建てられました。

こうして各地に建てられた教会は、その土地の建材と技術、文化を組み合わせて、その土地の風土にあわせた地方色豊かな教会が建てられました。現在、こうして建てられた教会は各地域の風景の一部となっています。

半円アーチやヴォールトなどの古代ローマ建築の技法を多様したため、「ローマ風の」という意味のロマネスクと名付けられました。

特徴

解説画像

・ロマネスク様式の教会の平面図。

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・ドイツのマリア・ラーハ修道院の外観。開口部が非常に少なく小さいです。

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・ドイツのマリア・ラーハ修道院内部。照明がついていても暗いです。

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構造

石はとても重い建材です。それで建てられているので、天井と壁が非常に重いです。

重い天井と壁を支えるために、半円アーチが多用され、開口部が非常に小さく少ないです。開口部が少ないので、光も非常に小さくなりました。そのため、内部はバシリカ式教会とは比べ物にならないほど暗いです。むしろこれが、厳かな空間を創り出しています。

クリプト

聖遺物を保管するための地下祭室。

クワイヤー(内陣)

独立した空間となるように設置された祭壇。

周歩廊

クワイヤー(内陣)を取り囲んでいる廊下。

放射状祭室

周歩廊から外側に突き出した祭室。

次のゴシック建築に引き継がれ、ヨーロッパ中に広がりました。

塔の登場

祈りの時間などを信徒に伝えるための鐘を設置するための塔が登場しました。

西構え

入り口正面を西に向け、入り口上に多層の構造物を設けた形式です。

ここに塔を配置するようになりました。

主な教会 

フランス

・サン・セルナン教会

・ノートル・ダム・デュ・ポール聖堂

・サン・フィリベール教会

・サント・マドレーヌ大聖堂

巡礼路の始点の一つです。

・ノートルダム・ド・アノンシアション大聖堂

巡礼路の一つです。

・サン・フロン大聖堂

巡礼路の一つです。

イタリア

ローマ帝国の本拠であったからか、バシリカ式の要素が非常に強く残っています。

独立した塔を持つ教会が多いです。

・ピサ大聖堂

洗礼堂やピサの斜塔など、複数の建築物が集合体として素晴らしい建築となっています。

・サン・ミニアト・アル・モンテ教会

バシリカ式を踏襲、明るい大理石を用いるなど、イタリア・ロマネスクの特徴を強く持っています。

ドイツ

・シュパイアー大聖堂

初期ドイツ・ロマネスクの傑作。ライン川沿いの三大聖堂の一つです。

・マインツ大聖堂

ライン川沿いの三大聖堂の一つです。

・ヴォルムス大聖堂

ライン川沿いの三大聖堂の一つです。

・マリア・ラーハ修道院

・バンベルク大聖堂

・トリーア大聖堂

ドイツ最古の大聖堂です。

・アーヘン大聖堂

スペイン

・サンチャゴ・デ・コンポステーラ大聖堂

ヨーロッパ最大の巡礼地の一つです。ここを目指す巡礼路が整備され、この巡礼路沿いに数多くの教会が建てられました。

ゴシック建築

ロマネスク建築とは一転、光に満ちた空間を持つ様式です。

ロマネスク建築は教会内部が非常に暗かったため、光があふれる空間を作ろうとして誕生しました。

採光のために、ロマネスク建築よりも壁を薄くして開口部を大きく多くする必要がありました。しかし、建材は相変わらず石だったので、新しい技術、開口部を大きくするための尖頭アーチ、薄くした壁の支えフライング・バットレスが開発されました。

大きなった開口部にはステンドグラスが設けられ、色彩の光あふれる空間が誕生しました。

天空を仰ぎ、手を広げて、色彩の光に包まれた、祈りを行うに相応しい神の恩寵・神の光に満ちた空間ができあがりました。フランスで誕生し、ヨーロッパ中に広がっていきました。

後述する尖頭アーチとリブ・ヴォールト、フライング・バットレスの3点の特徴を持った教会をゴシック建築と呼びます。

特徴

解説画像

・ゴシック建築の3つの特徴の解説画像。

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・パリのシャルトル大聖堂の西向きの正面の外観。2本の尖塔がそびえ立っており、大きな開口部にステンドグラスがはめ込まれています。

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芸術作品として

石彫、聖像彫刻、絵画、金銀細工、ステンドグラスなどの装飾を豊かにほどこし、教会を芸術作品として作り上げました。

また、聖書を彫刻や像などで表現したことで、キリスト教を視覚で感じられるようになりました。

大空間

天井を高く設けることで、上昇感の強い空間を造りあげました。

高い窓と、壁いっぱいの大きなステンドグラスから入る神秘的な光が空間を彩っています。

高さを追求した大空間を作るため、天への架け橋というイメージから、塔の建築に力が注がれました。

ロマネスク様式の西構えでは1本の塔でしたが、より上昇性を強調するために双塔が設けられました。上昇性を強調するために、開口部は縦長になり、てっぺんが鋭く尖っています。

また、各地で塔の高さを競う争いが生じました。高さを追求しすぎて崩れた塔もあります。

尖頭アーチ(ポインテッド・アーチ)

開口部を広げるためにアーチの弧の頂点を上に伸ばしたアーチ。

ロマネスク様式のアーチに比べ、弧が鋭く尖っています。

リブ・ヴォールト

簡単に言うと、天井の模様です。

柱の頂上から天井に沿って対角線上にアーチの筋を付け、それが2本交差しているもの。

フライング・バットレス

採光のために広くした開口部が崩れないよう支えるために設けられた、アーチ状のつっかえ棒のようなものです。

主な教会

フランス

ゴシック建築はフランスで華開いたので、ゴシックの典型的な特徴をもつ教会が多いです。

・サン・ドニ修道院

ゴシック建築が誕生した教会です。

・シャルトル大聖堂

・ランス大聖堂

・アミアン大聖堂

・パリのノートルダム大聖堂

・サン・マクルー大聖堂

イタリア

イタリアではゴシック建築があまり発達しませんでした。天井を高くして垂直性を追求するよりも、横を広げることで水平性が追求されました。

・ミラノ大聖堂

・シエナ大聖堂

ドイツ

ドイツでは、ロマネスク建築が強く残っており、多くの教会で小さな窓と簡素な装飾です。ただ、フランスに近い地域ではフランス・ゴシック建築に似た華やかな教会が多いです。

・聖エリザベート協会

典型的なドイツ・ゴシック建築。

・ケルン大聖堂

フランスのアミアン大聖堂を参考にして設計された教会です。工事が一時中断され、完成したのは19世紀です。

・フライブルク大聖堂

・ウルム大聖堂

・マクデブルク大聖堂

ドイツ最古のゴシック建築。

・ストラスブール大聖堂

ドイツ・ゴシックの代表作。現在はフランス領になっています。

・聖ヴィート大聖堂

ドイツ・ゴシックの代表作。現在はチェコ領になっています。

・レーゲンスブルク大聖堂

・聖ローレンツ教会

・シュテファン大聖堂

現在はオーストリア領になっています。

イギリス

12世紀から16世紀中ごろまで栄えました。ゴシック建築の代表作が多いです。

・カンタベリー大聖堂

初期イギリス・ゴシックの代表作。

・ソールズベリ大聖堂

初期イギリス・ゴシックの代表作。

・リンカーン大聖堂

初期イギリス・ゴシックの代表作。

・ヨーク・ミンスター大聖堂

・エクセター大聖堂

・キングス・カレッジ礼拝堂

天井の扇形ウォールドが特徴です。

・イーリー大聖堂

ベルギー

・サン・ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂

・聖母大聖堂

『フランダースの犬』で、ネロが見たがっていた絵画がある教会です。

ルネサンス建築

ルネサンスは、ゴシック様式が根付かなかったイタリアで誕生しました。

ヨーロッパ中に広がることはなく、イタリアと周辺地域でしか造られませんでした。地域が集中していただけに、文化と技術が凝縮され、素晴らしい傑作がいくつも誕生しました。

ルネサンスは『再生』という意味です。

規模・形態・用途が全く違う、古代ローマの建築技術を現代の教会建築に活かしたため、再生という意味のルネサンス(再生)と呼ばれています。

ルネサンスは、フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の新築工事から始まりました。

ハギア・ソフィア大聖堂が持つ巨大なドームを超える、超巨大なドームを持つ大聖堂を目指して建設が始まりましたが、既存の建築方法では巨大なドームの建築が出来ませんでした。

そんなとき、フィリッポ・ブルネッレスキが古代ローマが造ったドーム建築の最高傑作パンテオンを参考に、新しいドームの建築方法を生み出しました。

ブルネッレスキのおかげで、史上最高傑作のドームが完成できました。

古代ローマ建築の技術を『再生』したため、ルネサンスと呼ばれるようになりました。

ルネサンス建築は各地に伝播しました。

特徴

解説画像

・ルネサンスの集大成であるサン・ピエトロ大聖堂の平面図。

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・在りし日の、完全無欠の姿のサン・ピエトロ大聖堂。

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・ルネサンスの始まりである、フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。

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古代ローマ建築の再生

規模・形態・用途が全く違う、古代ローマの建築技術を現代の教会建築に活かしてあります。

完全無欠

ルネサンスは完全無欠を目指すようになりました。

サン・ピエトロ大聖堂は完全無欠を目指したルネサンスの理想が形となったもので、この大聖堂の完成によってルネサンス建築は目指すものがなくなりました。

マニエリスム

理想を形にした後のルネサンスは、手法(マニエラ)自体に趣向を凝らすしかなくなりました。手法に趣向を凝らすことがマニエリスムと呼ばれるようになりました。マニエリスムは、各地で優雅で洗練された作品をいくつも生みだし、ルネサンス末期を豊かにしていきました。

主な教会

イタリア

完全無欠を目指すイタリアでは、建物の端から端まで同じ間隔・同じ立体感でオーダーを並べ、均質で統一されて調和のとれたファサードが作られました。

・サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

ルネサンスの始まりとなった教会。花のマリアという意味です。

サンタ・クローチェ聖堂パッツィ家礼拝堂

初期ルネサンスの傑作です。

・オスペダーレ・デッリ・イノチェンティ

・サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂

色大理石を使い、カラフルな装飾を持つ美しい教会です。

・サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ

かの有名な、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『最後の晩餐』がある教会です。

・サンタ・マリア・プレッソ・サン・サーティロ聖堂

だまし絵を用いて、狭い空間を広々とした空間へ魅せています。

・サン・ピエトロ・イン・モントリオ教会のテンピエット

完全な円形を持つ、完全無欠を目指したルネサンス建築の最高傑作のひとつ。

・カンピドーリオ広場

2層を貫く長い柱、ジャイアント・オーダーと幾何学模様、古代の彫刻が施されており、古代ローマ帝国の栄光が表現されています。

・サン・マルコ広場

・サン・ピエトロ大聖堂

パンテオンのような美しいドームを持った、ビザンツ建築の集中式平面を持つ巨大な教会です。

美しい円型のドームを冠しており、完全無欠を目指したルネサンスの集大成です。この教会の完成により、ルネサンスも完成されました。

後年、一部が取り壊されてバロック建築に変えられました。

フランス

ルネサンスが誕生した当時、フランスではゴシック建築が華開いていたので、ルネサンス建築の影響をほとんど受けませんでした。

また、中央と両端のオーダーを少し前に張り出したパヴィリヨンというデザインでファサードが作られました。

・ブロワ城ルイ十二世棟

基本はゴシック様式で、細かい装飾がルネサンス様式です。

・ブロワ城フランソワ一世棟

螺旋階段がルネサンス建築の傑作です。

・シャンボール城

・ルーヴル宮殿レスコ翼

・エクーアン城

・サントゥスターシュ教会

フランスに建てられた、数少ないルネサンス教会の一つです。

オランダ

・アントウェルペンの市庁舎

オランダのルネサンス建築の代表です。

ドイツ

・ハイデルベルク城のオットハインリヒスバウ

現在はほとんど残っていません。壁一面に緻密な装飾が施されています。

・ザンクト・ミヒャエル聖堂

イギリス

ルネサンス建築が導入されるのが17世紀頃と遅かったため、イタリアで完成したルネサンス様式がそのまま導入されたので、素晴らしい建築が多いです。

バーリィ・ハウス

・クイーンズ・ハウス

・セント・ポール教会堂

古代ギリシアのトスカナ式オーダーを用いて、古代の神殿を表現しています。

 

バロック建築

カトリックの権威を魅せつけるために、より華やかで、より豊かな装飾で造られました。

当時、教皇庁は金欠だったので、罪を犯した人でも買うだけで罪を免れることができる免罪符を信徒に売りつけ、資金を集めていました。

この教皇庁のやり方に反発する人たちが集まり、プロテスタントという新たな宗派が作られました。

これに対し、教皇庁に従って従来の信仰を続ける人たちの宗派をカトリックと呼びます。

プロテスタントは次第に勢力を強めていきカトリックを脅かし始めたので、危機感を覚えた教皇庁は、カトリックの立て直しのためにカトリック改革を行いました。

プロテスタントの力が及んでいた地域に対しては再布教を行い、新大陸やアジアへは熱心に宣教活動を行いました。

バロック建築は、カトリック改革のために誕生した様式です。教皇の権威や力を信徒・異教徒に魅せつけるために誕生しました。

教皇の力をより大々的、大げさに魅せつけるために、ルネサンスのような調和のとれた美しさとは間逆なものが追求されました。

楕円、捻れ、曲線、歪み、動きのある形によって整合性と調和をかなり逸脱した大げさな表現、見るものを驚かせる様々な仕掛け、可能な限りたっぷりと隙間なく施された色や形、大きさをより派手にした各地の伝統を生かした装飾。

バロックとは、ポルトガル語で歪んだ真珠という意味です。

新大陸やアジアに宣教する過程で、バロック建築は世界各地に広まりました。なので、世界中にバロック様式の教会が存在しています。

特徴

解説画像

・イル・ジェズ教会の正面ファサード。装飾は全て、構造体とは関係ないただの飾りです。

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イル・ジェズ型

イル・ジェズ教会で確立されたバロック建築の定型です。

教会は背の高い建物なので多層のように思えますが、基本的に平屋です。また、身廊と側廊で高さが違うので部屋が複数あるように思えますが、基本的に一室です。なので、構造的にファサードをデザインできませんでした。

イル・ジェズ教会では、構造体とは無関係に、装飾のためだけにファサードを設けるという技法を創り出しました。これにより、1階と2階に分かれているかのように、縦方向に分割されているかのように見えるようになりました。

この技法により、教会の構造とは関係なく、自由にファサードを設定することができるようになりました。また、ファサードの中心にデザインの重点を置くために、中央にいくにつれて少しずつ前方に張り出していくという手法が用いられています。

また、この技法により教会を従来よりも派手に華美に魅せることができるようになりました。

外見

バロック建築は、教皇の権威を魅せつけるための建築なので、見えるところは手を抜かずに緻密な装飾が施されています。一方、背面などの見えないところは非常に簡素です。

美術装飾

装飾や美術が教会全体を覆いつくしており、教会が一つの芸術作品であるかのように仕上げられています。

トロンプルイユ(だまし絵)

空間を広く見せる手法です。

天井に空を描かくことで、空間を上方に拡張しているようにみせるものが多いです。

ジャイアント・オーダー

各層ごとにオーダーを施すのではなく、複数の階層を貫く柱を設けてそこに巨大なオーダーを施すという手法です。

マニエリスムの代表的手法です。

主な教会

イタリア

・サン・ピエトロ大聖堂

世界最大のカトリック教会であり、バロック建築の傑作です。

元々、ルネサンス建築の理想形として建築された教会でしたが、カトリック改革の一環としてカトリックの象徴的教会へと建て直されました。

集中式平面の教会はミサに向いていなかったため、全面的に改修されました。

正面は三層構造のナルテクスをもつファサードに、内部に身廊と側廊が追加され、平面はギリシア十字形からラテン十字形へと変更されました。教会の面しているサン・ピエトロ広場にはオベリスクや列柱廊が追加されました。

ルネサンスの理想形は消え失せ、カトリックの象徴的教会へと全く姿を変えました。

・ナヴォナ広場のサンタニューゼ・イン・アゴーネ聖堂とフォンターナ・ディ・クアトロ・フィウミ

・トレヴィの泉

・スペイン階段

・スペルガ聖堂

・サヴォイア王家の王朝群

・カゼルタ宮殿

・サンタ・スザンナ教会

イル・ジェズ型のファサードが初めて用いられた教会です。

この教会からイル・ジェズ型のファサードが広がっていきました。

スペイン

中世までスペインを支配していたイスラムの文化『ムデハル様式』と混ざりあい、独自の形に発展しました。

ムデハル様式は細かく豊かな装飾が特徴だったため、過剰な装飾に覆われたスペイン・バロック建築が誕生しました。

・サンチャゴ・デ・コンポステーラ大聖堂

・ラ・カルトゥハ修道院

フランス

・リュクサンブール宮殿

メゾン城館

ヴォー・ル・ヴィコント城館

ヴェルサイユ宮殿(改修・増築)鏡の間など

オテル・ド・スービーズ

・ヴァル・ド・グラース

イギリス

・セント・ポール大聖堂 

ブレニム宮殿

オーストリア

南ドイツとオーストリアはカトリックのままであったので、バロック発祥のイタリアよりも素晴らしいバロック建築が誕生しました。

・シェーンブルン宮殿

・ストックホルム宮殿

ドイツ

・ニンフェンブルグ宮殿

・サンスーシ宮殿

・ザンクト・ヨハン・ネポムク聖堂

・ヴィース巡聖堂

・フィアツェーンハイリゲン巡礼聖堂

・聖ミハエル教会

・テアティーナ教会

ロシア

・ツァールスコエ・セローのエカテリーナ宮殿

・サンクトペテルブルクの冬宮殿

ゴシック・リヴァイヴァル建築(ネオ・ゴシック建築)

中世の建築様式『ゴシック建築』が復活(リヴァイヴァル)したので、ゴシック・リヴァイヴァルといいます。

ゴシック建築が復活したキッカケは、19世紀頃から世界中で高まったナショナリズムの流れです。

ナショナリズムの流れの中で、キリスト教の教会の建築も見直されました。結果、ゴシック建築以外の建築様式は、異教である古代ギリシア・ローマの建築の流れを汲んでいるためにキリスト教の教会様式に相応しくないとされ、異教の影響を受けていないゴシック建築こそが真のキリスト教建築であると再評価されました。

これにより、ゴシック建築の様式にのっとった新しい教会を建てようという運動と、既存のゴシック建築を修繕しようという運動と、未完成のゴシック建築を完成させようという運動が起こりました。これらの運動をゴシック・リヴァイヴァルと呼びます。

このゴシック・リヴァイヴァルで新しく建てられた教会をゴシック・リヴァイヴァル建築もしくはネオ・ゴシック建築と呼びます。

ちなみに、ゴシック・リヴァイヴァルで建てられてたゴシック建築は非常に多く、有名な教会もゴシック・リヴァイヴァル建築が多いです。ケルン大聖堂の双塔やウルム大聖堂の鐘楼などがゴシック・リヴァイヴァル建築です。

特徴

画像解説

・ゴシック・リヴァイヴァルで改修されたケルン大聖堂。

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尖塔

近代技術によって、ゴシック時代よりもさらに高い尖塔を建てることが可能になりました。

主な教会

パリのサント・クロティルド教会

ウィーンのヴォティーフキルヒェ

ベルギー・オーステンデのシント・ペトルス・エン・パウルスケルク

長崎の大浦天主堂

 

 

おわりに

長くなってしまいましたが、キリスト教会建築の主な様式をかんたんに一覧でまとめることができました。

教会建築は2000年に及ぶ歴史があるので、教会は非常に興味深いものです。この記事だけでは解説しきれません。

ですが、建築は細かいことを知らなくても楽しむことができます。ぜひ、現地で肌で建築を感じてみてください。

旅がさらに楽しいものになりますように。

最後に、興味を持っていただいて、さらに詳しく知りたい方のためにオススメの本を紹介しておきます。

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用語

・オーダー

円柱の装飾様式。特に、柱の頂部、梁と接している部分の装飾。

・コンポジット式

オーダーの一つの様式。

イオニア式とコリント式を融合させたもの。イオニア式の渦巻とコリント式の複雑な装飾を持つ。

・エンタブレチュア

柱の上の水平材。三層になっており、下から順にアーキトレーブ、フリーズ、コーニス。

・ファサード

建物の正面の装飾

・ヴォールト

石材やレンガなどの重い材料で立体的に造形された天井

・トンネルヴォールト

半円筒形のヴォールト

・交差ヴォールト

トンネルヴォールトを交差させたもの

・ギリシア十字

横と縦の長さが全く同じ十字架。赤十字の十字架がこの形。

・ラテン十字

おそらく、普段最も目にする十字架。ギリシア十字の縦棒を下に伸ばした形。

・矩形

4つの角が直角の四角形