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世界の伝統的な住まい・ヴァナキュラー建築の基本 住居の素材の性質編

こんにちは。YoFuです。

今回は、『世界の伝統的な住まい・ヴァナキュラー建築の基本 住居の素材編』をお送りします。

世界の伝統的な住まい・ヴァナキュラー建築の基本である、世界中で広く使用されている建築素材の性質についてを解説していきます。

伝統的な住まいは、各地域で採れる素材を使って建てられてます。素材を知れば、住まいを知ることの助けになります。

 

まえがき、住居の素材の性質について

過去から現在まで、世界中で数え切れないほど多くの住居が造られてきました。

かといって、住居の数と同じだけの構造と建材があるわけではありません。

世界中の住居の構造には共通点が多く、建材も共通しています。

建材を大別すると、せいぜい土、石、木、植物の4種類程度です。もちろん、環境や場

所でそれぞれの建材は細かい種類に分けられます。しかし、大きい性質は共通です。

例えば、木材なら松や杉などの種類がありますが、木材としての性質は似ています。そして、世界中の大工ならだれでも木材の加工技術を持っています。

だからといって、各地で全く同じ住居があるわけではありません。

住居は、建材を最大限に生かして、環境に合わせた最も有効な形が造り上げられるものです。結果、同じ建材、共通の構造でも、地域によって異なる形の住居が造られます。

今回は、世界中で広く使用されている建材、土、石、木、植物の4つを紹介します。世界の住居のほとんどは、この4つの建材を使用して建てられています。

世界中で古くから残っている有名な建築の多くは石造建築です。

なので、世界中で石が一番使われているかのように思えますが、そうではありません。

世界で最も使われている建材は、土です。世界の大部分の地域で、土が最も一般的な建築材料なのです。

土はそのままの状態で使用しても十分な強度のある建築材として使用できますし、加工次第で多様な素材に化けます。

レンガやガラス、タイル、モルタルなどはすべて、土を加工したものです。

・土を加工して生み出すものの図

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今回は、土をそのまま使った場合、日干しレンガに加工した場合、焼成レンガに加工した場合を解説します。

それぞれで利点と欠点があり、世界各地の環境に合わせて使い分けられています。

土をそのまま建材として用いる場合

土は、水分が蒸発して乾燥すると、収縮して固くなり強度を増します。耐久性のある壁として十分に使えるほどの強度になります。

土を建材として使用する場合は、土に水を混ぜて粘土状にし、そこに藁や家畜の糞などを混ぜて使います。

粘土状にすることで柔らかくなり、扱いやすくなります。藁などは土同士の結びつきを強めるつなぎとしての役割があります。つなぎを入れなくても使えますが、つなぎを入れたほうが強度が高まります。

ちなみに、これを木の型枠に入れて乾かすことで、後述する日干しレンガとなります。

土をそのまま使うことの利点で、住居の形を自由に決めることができます。

柔らかい土は、手で簡単に成形できるので、思った通りの形を自由自在に造ることが出来ます。他の建材では真似できません。

土をそのまま使うのは、主にアフリカに多いです。コンパウンド構造という、土の特性を生かした住居の形態が多いです。

・トーゴ、バタマリバ人のコンパウンド構造の住居

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コンパウンド構造とは、各機能ごとに小屋を建て、小屋同士をゆるくカーブした土の壁でつなげる、もしくは土の壁で囲むという構造です。

ゆるくカーブした壁は、土だからこそできる技です。カーブした壁は構造的に優れていて、外から力が加わっても局面がその力を壁全体に分散させるので、衝撃に耐えることができます。

また、カーブした壁や小屋のカーブした壁の表面は人の手で仕上げるので、他の建材では真似できない、人間の体のような滑らかさ、柔らかさがあります。

こうした手法は土の種類により異なりますが、それぞれの地域がそれぞれの環境に合わせて技術を発達させています。

土をそのまま使う建築技法で有名なものに、版築という建築技法があります。

版築は、水分が乾燥するにつれて土が収縮して固くなり強度を増す性質を最大限に生かした工法です。

・版築で住居を造っている最中

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画像のようなコの字形の型枠を使って、土を突き固めて壁を造っていきます。下から順に積み重ねながら造っていくので、壁には型枠の高さの位置にラインが入ります。

中国で3000年以上前に発明された技法で、世界各地に広がっています。中国・中東に比較的多くあります。日本でも、法隆寺の塀で使われている技法です。中国の福建省にある円形土楼が世界的に有名です。

土をそのまま使った場合の欠点は、侵蝕に非常に弱いという点です。絶えずメンテナンスをする必要があります。

特に、雨に弱いです。乾燥することで固くなり強度を増しているので、水に濡れると軟らかくなり強度を失ってしまいます。

後述する日干しレンガも同じです。

土を侵蝕から守るために、壁にプラスターを厚く塗ります。プラスターは、様々な侵蝕から土壁を保護してくれるだけでなく、撥水効果があるので一番の弱点である雨に対して強い効果を発揮します。

土の弱点を克服したのが、後述する焼成レンガです。

日干しレンガに加工する場合

日干しレンガは、スペイン語でアドベ(adobe)と呼ばれています。

元々はアラブ人が造ったもので、アトベ(atobe)と呼ばれていました。それがスペインに伝わってアドベになりました。スペインの世界征服によって、スペイン語のアドベが世界中に広がりました。

日干しレンガは、土と水をこねたものに、藁や家畜の糞などの有機素材を混ぜ合わせ、それを木枠に入れて成形し、乾かしたものです。乾くと石のように固くなり、成形した形を維持するようになります。

それを積み重ねることで、簡単に耐久力のある壁を造ることが出来ます。

・木枠で成形している最中の日干しレンガ

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・日干しレンガを積んで造った壁

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土や水、藁や家畜の糞などは、人の生活しているところに必ずあるものなので、簡単にかつ大量に採れます。さらに、造るのが簡単で誰でも大量に作れるうえ、耐久性に優れているので、非常に重宝されました。

世界各地で広く一般的に使用されています。雨が多いアジアは除いて。特に、雨の少ない砂漠地帯で重宝されています。

木枠を使用しなくても、素手で成形することも可能です。ただ、しっかり成形されていないと、簡単にひび割れたり、積んだときにズレます。

型枠を使用すればこういったことはなくなり、大きさの揃ったものを造れるので、積み上げが楽になります。

日干しレンガに混ぜている、わらや家畜の糞などの有機材料は、砂を均一にしてつなぎ合わせる役割があります。これにより、レンガを乾かす際に均一に収縮するようになり、亀裂を防いで耐久性があがります。

日干しレンガを成形せず、泥モルタルとして使用する場合もあります。

日干しレンガを積む際の目地材に使用すると、壁がより頑丈になるだけでなく、建物に統一感が生まれます。レンガと同一の素材なので、乾燥も風化も劣化も同じように進みます。上の日干しレンガを積んで造った壁の画像は、泥モルタルが目地材として使われています。

プラスターとして外壁に塗ると、建物を侵蝕から保護してくれます。表面を滑らかにするための仕上げ材として、室内に塗られることもあります。プラスターを分厚く塗りすぎて、ドームが目立たなくなっているものもあります。

泥モルタルを着色して使うことで、建物に彩色を施したり、模様を描いたりすることが出来ます。

日干しレンガの利点は、材料が身近にあって大量に採れ、簡単に造れて、比較的耐久力があることです。とても優秀な建材です。

日干しレンガの欠点は、侵蝕のおそれが常にあることです。これは、土をそのまま使った場合と同じです。

弱点を克服したのが、次に解説する焼成レンガです。

では、日干しレンガを使用せずに焼成レンガだけを使えば良いと思うかも知れません。実際はそうではありません。焼成レンガだけ使われるようにならなかった理由は次の項目で解説します。

ちなみに、名前に日干しと付いていますが、日なたではなく、日陰で乾かされていました。日なたで乾かすと、太陽の熱さにより一気に乾いてヒビが入りやすいからです。なので、日陰でゆっくり乾燥させました。

焼成レンガに加工する場合

焼成レンガは、かまどの超高温で焼いたレンガです。

日干しレンガの天日干しとは比べ物にならないほどの高温を用いて作成します。

焼成レンガの材料は、粘土に砂や水を混ぜたものです。つなぎを入れなくても十分すぎるほどの強度があるので、日干しレンガのように有機素材は混ぜません。

・焼成レンガ

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土を超高温で焼成することで、変質が起こります。土とは全く別の素材に作り変えられます。なので、ただ乾燥させただけの日干しレンガとは全く違う性質を持っています。日干しレンガよりも耐久性、耐火性、耐水性、耐候性が遥かに高いです。

同時に、土と日干しレンガが持っていた弱点も克服されます。雨に侵食されることはないので、雨が多い環境など、土や日干しレンガを使用しにくかった環境でも問題なく使用できます。

ただ、焼成過程で物理的な変質が起こるので、日干しレンガのように土に戻してリサイクルすることが出来ません。

焼成レンガの利点は、耐久性、耐火性、耐水性、耐候性が非常に高く、侵蝕に強いことです。

水や風、砂による侵蝕は受けないも同然で、漆喰を上塗りして保護する必要はありません。裸のままでも問題なく用いることが出来ます。

焼成レンガの欠点は、材料の混合具合や窯の温度調節など、焼成レンガの製造には高度な技術が必要で、作成するための手間が非常にかかることです。

その分、ただ日干しするたけの日干しレンガよりも耐久性、耐火性、耐水性、耐候性が遥かに高いです。

最大の欠点は、焼成のために大量の燃料が必要なことです。

超高温で焼成するので、尋常ではないほど大量の燃料を消費します。必然的に、燃料が大量に採れる地域でしか焼成レンガは造られません。

木材が豊富だったヨーロッパでは、焼成レンガがポピュラーな素材になりました。労働者階級の住宅も焼成レンガで造られるほどです。

一方、砂漠をはじめとした燃料が乏しい地域ではあまり造られず、日干しレンガが一般的で、焼成レンガは非常に高価な素材でした。金持ちや権力者が使用し、自らの富や身分の高さを表すために使用しました。

現在のスリランカやスーダンなどでは、焼成のための燃料を採るために森林を大量に伐採しており、森林破壊が深刻です。

日干しレンガ、焼成レンガの共通の欠点が地震に弱いことです。レンガの壁は、レンガを単に積み重ねているだけなので、横方向から大きな力を受けると、ズレてしまいます。ズレにより、壁全体が崩れ、住居全体も崩れてしまいます。

実際、イタリアでは地震で多くのレンガ造の住居が倒壊しています。

・倒壊するレンガ造の住居

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焼成レンガの装飾性

焼成レンガは、焼成することで色が付きます。白っぽい色から、濃い赤茶色まで様々な色があります。

色を決めるのは粘土の成分、焼成温度や時間、方法などです。

粘土に含まれる鉄分が多ければ赤い色になり、石灰が多ければ白や黄色っぽい色になります。

また、低い温度で焼成すれば赤みが強くなり、高い温度で焼成すれば白みが強くなります。焼成時間を短く、長くしたり、煙でいぶしたりしても色が変わります。

レンガの色は地域のよって違うのでレンガの色は、建物に地域性をもたらします。

焼成レンガには漆喰の上塗りが必要ないので、壁の表面にはレンガの色や積み方がそのまま現れます。レンガの色は建物に装飾性ももたらします。

これはつまり、レンガの色と積み方をそのまま装飾的に用いることができるということです。積み方のパターンを工夫することで、様々な模様を描くことが出来ます。

各地で様々な積み方があります。

・フレーミシュ積み(上)とイギリス積み(下)

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1つの段に、長手−小口−長手と交互においていく、フレーミシュ積み(フランドル積み)。これはイギリスやオランダで盛んです。

長手の段と小口の段を交互に積み重ねていく、イギリス積み。

長手の段を3つと小口の段1つを1セットにして、セットを交互に積み重ねていく、イングリッシュガーデン積み。

など、紹介しきれない数多くの積み方があります。

また、レンガを積む際のモルタルを分厚くすることで、ひし形やヘリンボーンなどの特殊な積み方をすることが出来ます。

レンガ自体の形を変えたり、線を引いたりなどでも装飾的にすることが出来ます。

 

世界の有名な建造物には、石材を使用した巨大なものがとても多いです。

そのため、石材の使用が一般的なイメージを持ってしまいますが、住宅の建材として世界中で一般的に使用されている素材ではありません。

石は、手に入りにくい建材ではありません。土と同じように、そこら中で簡単に手に入る建材です。

なのに、住宅の建材としてはあまり使用されていません。

というのも、石はとても扱いにくいからです。

例えば、花崗岩です。花崗岩は世界中で広く存在している、ありふれた石です。緻密で硬く、磨くと美しく光ることから石材としてはとても優秀ですが、その硬さ故に加工が非常に難しく、加えてかなりの重量があります。

このように、一般的に石は硬く、重いです。種類にもよりますが。もちろん、全ての石で加工が難しいわけではありません。中には加工に適した石もあります。それが、石灰岩です(石灰岩の住居についてはこちら)。ただ、加工に適した石はごく一部です。石の多くは加工が非常に難しいです。

石を使用して住居を建てるためには、加工に適した石が簡単に手に入り、加工をする技術があり、加工するための道具があり、加工するための時間が必要です。

岩を切り出し、住居の建築予定地まで運び、形を整え、組み上げるには相当な時間と手間がかかります。

なので、石を住居に使用する場合は、石の他に建材として使用できるものがない場合がほとんどです。木材があれば、木材で住居を建てます。土があれば、土で住居を建てます。そのほうが簡単で時間がかからないからです。

一般的に、石以外の建材が豊富にある地域で、石を住居に使用するのは、金と時間に余裕がある富裕層に限られます。

ただし、加工しにくい石であっても、風化が侵食して簡単に割れたり、住居に適したサイズが手に入るなら、石が住居に用いられることはあります。ポルトガルのベイラ地区のような。

ちなみに、農民は忙しくて住居の建設に時間をさけないので、石を使用して住居を建てる場合、加工せずに粗石のままランダムに積むことがほとんどです。

木材は、古い歴史を持ち、世界的に広く使用されている建材です。

引張力と圧縮力の両方に強く、耐久性があり、柔軟性にも富んでいます。加工が容易で、簡単な工具があれば容易に加工できます。複雑な彫刻を施すことも可能です。

使い勝手の良さから、世界中で広く使用されています。

ただし、木は有機素材なので、虫に食べられたり、湿気で腐ったりなど、痛みやすいため、古い建造物が現存していることはめったにありません。

当然ですが、木造建造物の数の多さは、森林面積をそのまま反映しています。木が多ければ木造は多くなりますし、木が少なければ木造は少なくなります。

木には、大きく分けて2種類あります。針葉樹と広葉樹です。

・針葉樹(左)と広葉樹(右)

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針葉樹は、幹がピンと真っ直ぐに成長します。真っすぐ伸びた幹から枝が生え、キレイな円錐形を形成します。クリスマスのモミの木のイメージです。柔らかいので、ソフトウッドと呼ばれています。

広葉樹は、幹が根本付近で大きく枝分かれし、枝からもさらに枝分かれし、大きく広がりながら成長します。硬いので、ハードウッドと呼ばれています。

北極圏のスグ下の地域や、山の上などの年中寒い地域では、針葉樹林を形成することが多いです。

冬は寒くて夏は暖かく、年間通して降水がある地域では、広葉樹林を形成することが多いです。

各地それぞれで、採れる木材を使って家を建てます。針葉樹と落葉樹のどちらも育つ国では、組み合わされること多いです。

細部は異なりますが、世界の木造の建物の建設工法は、大きく2種類です。

1つが、丸太組工法(ブロックワーク)です。木材を水平に積み重ねて壁とする工法です。荷重を安定性に転化する。

もう1つが、軸組工法です。垂直に配置した柱身で基本構造を構成する軸組工法。
どちらの工法にも、広葉樹、針葉樹は使えますが、一般に、広葉樹は軸組工法、針葉樹は丸太組工法に使用されることが多いです。

針葉樹はまっすぐに伸びるので、木を水平に積み重ねていく丸太組工法に適しています。

広葉樹は針葉樹よりも強度が非常に高いので、軸組工法に適しています。

丸太組工法

・丸太組工法の住居、ログハウス

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丸太を水平に、一本一本積み重ねて壁を造っていきます。井桁に組みながら、四方の壁を同時に造っていきます。上に載せた木材の圧力や重量で壁が崩れることを防ぐ。丸太組工法の住居をログハウスまたはログキャビンと呼びます。

針葉樹が豊富な、寒い地域で多く見られる工法です。木材を水平に積み重ねると、断熱性が高くて隙間のない壁を造ることが出来るので、身を切るような極寒の地でも快適に過ごすことが出来ます。

木材を大量に使いますが、樹皮を剥ぐだけで使用できるので、木材の準備の手間は意外とかかりません。

準備の時間がある場合、手間がかかりますが、木材を四角く削って芯材のみを使うこともあります。幹の硬い芯だけを使うほうが、強度は高くなります。

角柱を使う場合でも、この記事ではわかりやすいように丸太と呼びます。

丸太を井桁に噛み合わせながら垂直に積んでいきます。

井桁の丸太同士が交差する部分には、丸太同士がきっちり噛み合うように、丸太の先端部に切り込み(ノッチ)を入れます。丸太同士がきっちり噛み合うように切れ込みを入れると、丸太の重量だけで丸太同士がしっかりと固定されます。

切れ込みは、丸太の上面か下面のどちらか片側、もしくはその両側に入れられます。両側だと、片側よりも非常に強い接合になります。接合が強くなれば、その分だけ建物自体の強度も強くなります。

切れ込みは正確に処理が必要で、処理が甘いと建物の強度が落ちてしまいます。そのため、高度な技術が必要です。

切り込みの入れ方でも、接合の強さが変わります。丸太組工法が一般的なフィンランドでは、なんと70種もの継ぎ方があると言われています。

切れ込みを入れる場所を丸太の先端にすることで、丸太の交差部で丸太が飛び出さないようにすることも出来ます。

丸太を積んだ際にすき間が出来たら、木屑や土、小石、苔などで埋めます。

丸太組工法は、完成までに時間がかかる工法です。

丸太を1本ずつ順に積み重ね、積み終えても1年ほど待たなければ壁が落ち着いてきません。丸太同士が重みを受け、水分が抜けて収縮してはじめて、接合部がしっかりと噛み合ってきます。

建物が落ち着いてからやっと、ドアや窓などの開口部をカットできるようになります。時間がない場合は、建物が落ち着く前に開口部をカットしてしまいます。この場合、木の収集により開口部の枠が若干歪んでしまうことがあります。

丸太組工法は、井桁に組むという構造上、矩形平面になる傾向が多いです。ですが、矩形平面同士を組み合わせることで、豊富なヴァリエーションを生み出します。直角に組み合わせてL字型にしたりなどです。

丸太組工法は世界中でよく見られ、世界で最も普及した工法の一つです。

丸太組工法は少なくとも、紀元前747年には存在していました。

丸太組工法の伝統は、東・北ヨーロッパを中心に築かれていきました。東ヨーロッパは針葉樹の木材資源が豊富で、寒冷地だったので、丸太組工法が非常に適していたからです。

現在でも、東・北ヨーロッパには数多くの丸太組工法の建物が残っており、現在も造られ続けています。

アメリカにも丸太組工法は普及しています。アメリカ移民が持ち込みました。その後、丸太組工法はアメリカ大陸全土に広がり、カナダ・アメリカには丸太組工法がない場所が無いほどの普及っぷりです。

オーストラリア、ブラジルなどにも丸太組工法は持ち込まれました。

結果として、世界中に最も普及した工法の一つとなりました。ただし、大量の木材が容易に手に入る土地でないと造られません。

軸組工法

・軸組工法の骨組み

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軸組工法は、垂直と水平の木材を組み合わせて骨組みを造り、壁を埋めて屋根を架ける工法です。

丸太組工法と違い、建物の重量を支えているのは壁ではなく、垂直の木材である柱と水平の木材である梁です。

より重い荷重を支える場合、柱や梁を太くします。荷重を支えているのは長さではなく太さです。

梁の長さを2倍にすると、1/2の荷重しか持ちこたえられなくなります。太さを2倍にすると、4倍の荷重を持ちこたえられるようになります。

太くすればするほど、より重い荷重を支えることが出来るようになります。梁の長さを長くすればするほど、より重い荷重を支えることが出来なくなります。

梁を太くすると、梁を支えるためにより太い柱が必要になります。方づえや間柱、筋交いを取り付けることでより重い荷重を支えることが出来ます。

また、部材同士の接合部の継ぎ方によっても建物の強度がかわります。強固な継ぎ方を用いると、建物は強固になります。

軸組工法は、建物の骨組みを提供するだけなので、骨組みの間のスペースを埋めなくてはなりません。

柱と柱の間は、適当な素材を使って塞ぎ、壁とします。

壁の素材は、土、泥、木の板、レンガ、羽目板張りなど、各地で多様です。泥壁の場合、枝を下地にします。石、レンガで埋める場合、埋め方にパターンをつけることでおしゃれに仕上げることができます。

すき間を塞がずに、窓やドアなどの開口部としても使えます。

軸組工法は、すべての工法の中で一番自由度の高い工法です。

 

植物

木が生育しない地域では、植物に建材としての可能性を見出しました。
世界中に、建材として素晴らしい性質を持つ植物が沢山あります。

竹は五大陸すべてに生えています。寒さにも暑さにも強いので、熱帯から寒帯、4000mの高度まで非常に広く分布しています。実に、世界に700種以上もの竹があります。

この分布の広がりは、種類によって、強度、防虫、防菌、成長具合などの性質に違いあることを示しています。

なんと、コロンビア、エクアドル、ペルーに生えているジャイアントバンブーは高さ27mにも達します。

竹は成長がとても早く、一日で1mも成長します。もっと長く成長する種もあります。刈り取っても、スグに収穫できるようになります。いくらでも生えてくるので、建材として贅沢に使用することが出来ます。

竹の茎は『稈』と呼ばれ、内部が空洞になっています。水を通さない硬い節が数十cmおきにあり、上下を仕切っています。

竹は大人が一人で持ち運べるほどの重さしかなく、非常に軽量です。非常に軽いわりにかなりの強度があり、植物のしなやかさも兼ね備えています。特に、引張力には強いです。しかし、横からの力には弱いです。また、加重を支えるのには向きません。ただ、この弱点は数本の竹を束ねることで克服できます。

加工が非常に簡単で、ナタ一つあれば容易に作業が出来ます。しかも、取り除かなければならない樹皮がなく、加工の手間が非常に少ないです。

中が空洞なので、切断も割るのも簡単です。細く裂けば、ヒゴという紐になります。半分に割れば、スペイン瓦のような屋根材として使えます。

竹同士をつなげる際が、紐で縛るのが通常です。釘だと、竹が割れてしまいます。

竹は非常に強くて軽量なので、頑丈かつ軽量な住居を造ることが出来ます。木材が手に入る地域では、木材と組み合わせてより頑丈な住居を造ります。

すべて竹で造られた住居も存在しています。竹の住居は東南アジアに多いです。

ちなみに、竹は釣り竿、籠などの日常品にも使用されます。

葦は、川や湖、沼地などの水辺に群生する、背の高い植物の総称です。世界中のどこにでも生息しています。

中には、人間の背丈をやすやすと超える高さにまで成長する葦もあります。

成長がとても早く、条件がよければ一年に約5メートル (m) 伸びるものもあります。

柔軟性と弾力性に富んでいますが、1本1本はとても細いです。根から切り離すと、自重すら支えられずに倒れてしまいます。

なので、葦1本では構造材としてとても使用できません。しかし、葦を何本も束ねて太くすれば、構造材として使えます。

驚くべきことに葦だけで造られた住居が世界には存在しています。

ただ、束ねてまで葦を使う場合、他に使える材料がなくてしょうがなく使っている場合がほとんどです。他に使える建材があれば、そっちを使います。実際、葦だけを使用して住居を造っている地域は、葦以外に使える建材がありません。

構造材としてはあまり優秀ではありませんが、屋根葺き材としてはかなり優秀です。

葦は、中が空洞になっているので断熱性がとても高く、軽いです。熱伝導率が低いので、外気をシャットアウトしてくれます。防水性も高いので、雨が降っても心配ありません。

葦を屋根材として使用した屋根は茅葺き屋根と呼びますが、世界中に存在しています。

茅葺きの茅は、イネ科の植物のことです。収穫が終わった麦の稲、米の稲などが屋根葺き材として使用されます。身近な素材ということも、屋根材として広く普及した要因の一つです。

近年、茅葺き屋根は絶滅の危機に瀕しています。というのも、近年誕生したコンバインで収穫すると、茅が折れ曲がるので使い物にならなくなってしまうからです。

茅葺き屋根を現代も造り続けている地域では、わざわざ手で収穫しています。

屋根について

素材のこととは直接関係ありませんが、屋根についても解説しておきます。

伝統的な住まい・ヴァナキュラー建築で一番ネックになるのが、屋根です。

壁の重量は地面が支えてくれますが、屋根は支えてくれるものがありません。屋根の支えは、1から用意する必要があります。屋根を支える骨組みを小屋組みと呼びます。

小屋組みについて

屋根の構造は、地域の独自性が強いです。梁や桁、垂木などの要素は共通ですが、屋根葺き材や骨組みの材料などによって小屋組みの構造が変わるからです。例えば、屋根葺き材が重ければ、頑丈な小屋組みが必要になります。地域によっては、小屋組みを用いずに屋根を造る技術を開発した地域もあります。

一般的な屋根は、小屋組みを造り、そこに屋根材を葺きました。

小屋組みは屋根材の重量を支えるので、屋根材が重ければ頑丈な小屋組みが必要になります。

また、小屋組み自体の重さで屋根が崩れてしまわないように、建材には軽量で強度があり、壁から壁まで渡すことのできる長さがあるものが選ばれます。

なので、土や石は骨組みには使えません。長さが足りないうえに重いからです。木が一般的な小屋組みの材料です。軽量なうえ、強度があるので重い屋根材を支えることができます。

木がなく、石や土しかない地域では、円錐形のドームを架けることで屋根を造ります。小屋組みを造らずに屋根を造る工夫です。

ドームは、ドーム自体がドーム自らの重さを支えるので、骨組みがなくても自立します。そのため、石や土などの骨組みに使えない建材だけで屋根を造ることが出来ます。

イタリアのトゥルッリが有名です。

ただ、円錐形のドームでは小型の屋根しか造れません。大きなドームでは、ドームを架けるための骨組みが必要になるからです。

また、手間のかかる屋根を造らず、そもそも屋根の問題を生み出さないというも方法あります。壁を内側に向かって斜めに傾斜しながら建て、三角錐の住居を造ります。こうすることで、壁が屋根の役割を果たしてくれます。

屋根材について

天候による影響を一番受けやすいのは屋根です。環境から建物を守ってくれるのも屋根です。

建物を守るために、屋根材の選択が非常に大切です。

世界でポピュラーなのが、茅葺きです。茅は、収穫が終わった麦の稲や米の稲などを乾かしたもので、ごく身近な素材でした。

茅は茎の中が空洞になっているので、断熱性にとても優れています。夏は暑さを、冬は寒さを防いでくれます。また、とても軽量なので、頑丈な骨組みを必要としません。ただ、植物故に腐ったりしてしまうので、メンテナンスが頻繁に必要です。

瓦も世界でポピュラーな屋根材です。瓦は焼成レンガの一種で、粘土を屋根材に適した形に成形して焼いたものです。故に、瓦は焼成レンガの持つ耐候性、耐久性を持っているので、屋根材に瓦を用いることで、丈夫な住居を造ることができます。

屋根から瓦が落ちてきたら惨事なので、モルタルを使わなくても、敷き詰めるだけで瓦同士がピッタリと重なり合って固定されるような形に成形されます。

瓦は重量があるので、瓦で葺いた屋根はかなり重いです。屋根の重みで建物が潰れないように、しっかりとした頑丈な骨組みが必要になります。

焼成レンガを作成したり、屋根材を支えるためのしっかりとした骨組みを組んだりなど、手間がかかってしまいますが、焼成レンガの耐候性、耐久性から優れた屋根材として活躍します。茅と違い、メンテナンスもフリーです。

少しだけ先が細くなった半円筒形の瓦を凹面を上に向けて並べ、その継ぎ目に凹面を下にしてかぶせるのがスペイン瓦です。

ちなみに、瓦は中国で誕生しました。

 

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参考にした本

参考にした本を紹介しておきます。ここで紹介した住居以外にも、世界中の伝統的な住まい・ヴァナキュラー建築が解説してあります。

伝統的な住まいに興味を持った人は、読んでみてください。値が張るのが多いですが・・・